ドイツ近代工業のパイオニアたち 
     −技術と産業を創った人々−
著 者:  浅井治海
ISBN978-4-902410-21-1
■体裁/A5判・196頁 ■価格/3,024円 (本体2,800円+税) ■発行/2011年4月

刊行のねらい

 技術の歴史は人間の歴史とともに始まる。人間が存在する所には必ず技術がある。
 時の流れの中で技術・産業は発展したが,その間に急速な展開をした時期があった。それは“産業革命”と呼ばれることもある。産業革命なる語は刺激的な言葉であり,技術・産業発展過程での急速な進展のあった時期を指すのに用いられている。
 技術と産業の飛躍期の核心は相互に関連した一連の技術革新である。機械や動力が生産に集中し,零細職場や家内工業が大小の工場にとってかわられ,雇い主 は完成品を販売するとともに,設備資本を提供してその使用を監督し,労働者は単なる働き手になった。資本制工場が社会的生産の新しい形になり,作業機械が 発明されて普及した。マニュファクチュア(工場制手仕事)的生産技術が機械技術に移行し,その労働組織が工場制度に移った過程が産業革命である。
 “産業革命”というと一般にはイギリスの技術と産業の飛躍期を指すのが通念である。その時期についてはそれぞれの識者によってかなり異なっていて,18 世紀中頃から19世紀中頃とする説が多い。それによって1860年にはイギリスは世界経済で第1位を占め,ベルギー,フランスがそれに続いた。ドイツは 1870年代以前は工業国の段階になく,アメリカでは1860年代に始まり,1870年代になるとフランスを追い越し,1880年代にはイギリスを追い越 し,1890年代には最強の資本主義国家になった。ドイツはこの頃までに工業生産でアメリカ,イギリスについで第3位になり,フランスは第4位であった。
 技術と産業の飛躍による変革の結果,西ヨーロッパの国々の殆どで製造業者および商業・金融業とその関係者によって大きく支配されることになった。しか し,ドイツやオーストリア・ハンガリーでは貴族が政治権力を保持し続け,実業界はそれに従属していた。しかし,19世紀のプロイセンでは東エルベで特権を 持つ騎士領の多くが平民の手に落ち,1870〜1913年の間にプロイセン軍隊の将校団の貴族の割合は70%から30%に減少した。
 プロテスタントの教義の台頭は近代の工業化に大きく影響したことは良く知られている。
 貧しい農業国であったドイツが工業国として近代に極めて重要な国に発展したのは何時頃からであろうか。特に,工業の展開は科学を背景に大きく成長したこ とがよく知られている。どのようにして急速なテンポでそれに成功したのか。それを知りたいというのが,筆者の願いである。そこでドイツの工業技術の急速な 発展やその背景をなす社会の展開を調べてみた。また,それには多くの工業化のパイオニアたちが大いに活躍したが,その活動を良く知ることも大変参考になる と考えた。
 本書ではドイツの技術と産業の飛躍期前の動きを明らかにすることによって,工業化飛躍の時代にどのような変化が生じたのかを明確にしようと努めた。ま た,簡単にヨーロッパの中世の技術の流れを見,ドイツより早く工業化した先進国のイギリスの工業化によるその社会的問題点にも触れた。それはまた,ドイツ においても経済問題であるとともに社会問題であり,政治も大きく関与した。こうした動きの中にドイツの特質を求めることができ,近世ドイツの動きを理解す る資料も得ることができると信じた。また,産業による国家の発展には大量の資源とその市場が必要であり,遅れて参入した国は先行した国々に叩かれたことは 歴史の示す所である。
 今後のわが国の発展に少しでも役立つことを願って本書をまとめた。資料には多くの混乱があるうえに,筆者の浅学で判断の間違いも多々あるものと思われる。ご指導戴ければ幸いである。

  2011年春                       浅井 治海


                               目   次

はじめに

第1章 ルネサンス期から18世紀頃までのドイツの動き
 
1.1 社会と経済
 1.2 技術と工業
  1.2.1 特許
  1.2.2 教育機関
  1.2.3 技能マイスター
  1.2.4 技術と産業
     (1)水車
     (2)鉱山,鉱山技術と金属技術
     (3)冶金技術
     (4)蒸気機関
     (5)軍事技術
     (6)繊維産業技術
     (7)精密機械・機械と計算器
     (8)化学技術
     (9)ガラス
     (10)写真術
     (11)印刷
     (12)窯業
     (13)運河・地図作成・測量・航海・道路
     (14)科学

第2章 ドイツ工業飛躍の時代
 
2.1 概況:政治 , 経済 , 社会
  2.1.1 政治問題
  2.1.2 社会問題・労働者問題
  2.1.3 労働争議と組合運動
  2.1.4 手工業者問題
  2.1.5 農業・農民問題
  2.1.6 19世紀末頃のドイツの技術者観
  2.1.7 ドイツの工業化を促進したものは
     (1)ドイツの風土
     (2)ドイツの科学の力
     (3)技術教育
     (4)カイザー・ヴィルヘルム研究所の設立 , 組織研究
 2.2 各種工業の拡がり
  2.2.1 蒸気機関
  2.2.2 紡績業・繊維工業
  2.2.3 炭坑
  2.2.4 製鉄業・製鋼業
  2.2.5 機械工業・工作機械 , 金属加工
  2.2.6 化学工業
  2.2.7 ガラス工業
  2.2.8 窯業
  2.2.9 交通・鉄道・運河
  2.2.10 通信
  2.2.11 発電機と電動機・電気
  2.2.12 内燃機関 , 新しい動力機械・自動車
  2.2.13 飛行船・飛行機
  2.2.14 建設
  2.2.15 照明
  2.2.16 印刷技術
  2.2.17 軍事技術

第3章 ドイツ工業のパイオニアたち
 3.1 鉱山業
  3.1.1 フランツ・ハニエル(Franz Haniel)
  3.1.2 フーゴー・シュティンネス(Hugo Stinnes)
 3.2 製鉄・製鋼業
  3.2.1 アルベルト・シュトッツ(Albert Stotz)
  3.2.2 フリードリヒ・クルップ(Friedrich Krupp)
  3.2.3 アルフレート・クルップ(Alfred Krupp)
  3.2.4 アウグスト・ティッセン(August Thyssen)
  3.2.5 ウイリアム・シーメンス(William Siemens)
 3.3 電気
  3.3.1 ヴェルナー・フォン・ジーメンス(Werner von Siemens)
  3.3.2 エーミール・ラーテナウ(Emil Rathenau)
 3.4 ガラス・光学ガラス
  3.4.1 フリードリヒ・ジーメンス(Friedrich August Siemens)
  3.4.2 カール・ツァイス(Carl Zeiss)
 3.5 自動車およびその部品
  3.5.1 ゴットリープ・ダイムラー(Gottlieb Daimler)
  3.5.2 ローベルト・ボッシュ(Robert Bosch)
 3.6 冷凍技術
  3.6.1 カール・フォン・リンデ(Carl von Linde)
 3.7 製管
  3.7.1 ラインハルト・マンネスマン(Rheinhard Mannesmann)
 3.8 ガス器具
  3.8.1 ユリウス・ピンシュ(Julius Pintsch)
  3.8.2 フーゴー・ユンカース(Hugo Junkers)
 3.9 飛行機
  3.9.1 フーゴー・ユンカース(Hugo Junkers)
 3.10 化学
  3.10.1 カール・デュースベルク(Carl Duisberg)
  3.10.2 カール・ボッシュ(Carl Bosch)
 3.11 金融
  3.11.1 グスタフ・メービセン(Gustav Mevissen)
 3.12 新聞
  3.12.1 ヴィルヘルム・ジラルデ(Wilhelm Girardet)

第4章 中世ヨーロッパの技術の発展
 4.1 宗教の支配
 4.2 イスラム世界の発展と没落
 4.3 中世最盛期の個々の技術の発展

第5章 ルネサンス期から18世紀頃までのドイツ以外のヨーロッパ諸国の動き
 5.1 社会と経済一般
 5.2 技術と工業と科学

第6章 工業化先進国の技術と産業の飛躍
 6.1 イギリスの動き
 6.2 フランスの動き
 6.3 アメリカの動き

参考文献

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